最近のIPO環境に加え、IPOに伴う会計監査環境について解説します。
2024.12.17
近年のIPO環境は複数の要因によって変動しており、IPOを目指す上では直近のIPO環境を理解する必要があります。
日本におけるIPO市場は、特に近年、スタートアップ企業や成長企業の上場が増加しており、活発な市場となっています。特に東証グロース市場では、テクノロジー、ヘルスケア、フィンテックなどの成長性の高い企業が多数上場しています。
市場環境の好調要因として、国内外の投資家のリスク資産への投資意欲が高まり、特に成長性のある企業に対する期待が高まっていることが挙げられます。低金利環境やインフレ対策のための資産運用が求められていることも、IPO市場の活性化に寄与しています。
一方で、IPOを支えるプロセスには現状課題もあり、特に監査法人の役割やコスト面の問題が浮上しています。
最近、大手監査法人がIPO案件の受託を控える動きが見られます。その背景には、コスト面やリソース不足の問題が潜んでいます。
監査法人がIPO案件を担当する際には、企業の財務情報の正確性や内部統制の信頼性を確保するため、通常より徹底した監査が求められます。しかし、IPOを目指す企業には財務体制が未整備なケースも多く、膨大なリソースが必要となる一方、資金不足のため監査法人にとって採算が合わないことが少なくありません。また、監査法人側には以下の課題もあります。
■ 監査コストの増加
監査法人の費用は年々上昇しており、特にIPO案件には高度な専門性や追加の人員が必要です。このため、監査コストは通常業務よりも高く、さらに数年にわたる準備期間中の費用も企業にとって負担となります。そのため、報酬不足や報酬に比してリスクが大きい場合、IPO案件の受け入れを控える監査法人も増えています。
■ リソース不足と人材難
監査法人はIPO希望企業の増加に対し、対応できるリソースや専門人材が不足しています。特にIPO案件を担当できる有資格者の数が限られているため、優秀な人材の確保が難しく、案件需要に応えきれない状況です。
■ リスク管理の強化
監査法人は、IPO失敗や不正会計リスクを回避するために厳格なリスク管理を行っています。その結果、リソースが限られた中堅・中小企業やリスクが高い企業に対しては、監査を引き受けないケースが増加しています。
大手監査法人がIPO案件を受けないことで、上場を目指す企業にいくつかの影響が出ています。
■ 上場準備の遅延
監査法人がIPO案件を引き受けられない場合、企業は他の監査法人を探す必要があり、これが上場準備の遅れにつながることがあります。上場に必要な準備期間が延びると、上場タイミングを逃すリスクも高まります。
■ 監査法人選定の難航
企業が希望する監査法人を選べない場合、規模やリソースの限られた中小監査法人と契約せざるを得なくなることがあります。しかし、中小監査法人ではリソースが限られ、上場基準を満たすための監査の質が確保できない
■ 企業のコスト負担の増加
監査法人の費用が上昇しているため、IPOを目指す企業は準備段階でのコスト負担が増加しています。特にスタートアップ企業や中小企業にとって、上場準備に必要な監査費用が過大な負担となることもあります。
このような状況を受け、IPOを目指す企業はさまざまな戦略を検討する必要があります。
■ 上場準備の早期着手
監査法人の選定に時間がかかることが見込まれるため、早い段階から監査法人を確保し、上場準備に入ることが重要です。また、上場準備におけるガバナンスや内部統制の整備を迅速に進める必要があります。
■ 監査法人の多様化
大手監査法人に依存せず、より多くの監査法人と協力することで、IPO準備を進める企業が増えています。中堅の監査法人でも質の高い監査を提供できる企業は存在するため、リソースの多様化を図ることも選択肢となります。
■ 規制当局や証券取引所との協力強化
規制当局や証券取引所も、IPO市場の活性化を維持するため、企業や監査法人との対話を強化し、上場プロセスの改善に努めています。今後、IPOプロセス全体の効率化が進む可能性があります。
この記事では、最近のIPO環境について、特に会計監査の現状に焦点を当てて解説しました。しかし、実際にIPOを目指す際には、ここで触れた内容以外にも多岐にわたる課題や検討すべきポイントが存在します。これらについては、別の記事でもさらに深掘りしていく予定ですので、引き続きお役立ていただければ幸いです。
IPOに関する疑問や具体的な課題がございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。