企業再生

準則型私的整理

私的整理の類型と、そのうちの一つである準則型私的整理について解説します。

2024.12.17

私的整理は、破産法・民事再生法・会社更生法などの法的整理(法的倒産手続)を経ずに、債務者(対象企業)と債権者の合意に基づいて債務を整理する手続であることを、『私的整理と法的整理』でご説明しました。

私的整理の中にも種類がありますが、今回はそのうちの「準則型私的整理」について詳しく説明します。

 

 

純粋私的整理と準則型私的整理

 

私的整理は大きく以下の区分に分けられます。

 

純粋私的整理は、債務者と債権者の合意のみにより進められる整理であるため、ケースごとに内容は異なります。純粋私的整理は柔軟に手続を進めることができるというメリットはありますが、法的整理や準則型私的整理に比べ手続の公正性や透明性に欠ける点や、債権者としてルールのない手続に対して信頼を置くことが難しい点にデメリットがあります。

そこで、これらのデメリットを解消するために、様々な準則化(ルール化)された私的整理手続が複数公表されるようになりました。
準則型私的整理では、一定の準則(ルール)に従って手続が進められるとともに、再生計画案に対する調査を第三者が行うなど、手続の公正性や透明性を確保する工夫がなされており、法的整理手続に遜色のないものとなっています。

中小企業が事業再生を図るうえでは、風評被害の抑制やコスト負担の面から、まずは私的整理から検討することをおすすめしますが、私的整理の中でも、拠り所に出来る準則(ルール)のある準則型私的整理手続の方がより活用しやすいといえます。

 

 

 

様々な準則型私的整理手続

準則型私的整理手続には、会社を清算する清算型手続と事業の継続を図る再生型手続があります。一般的に、私的整理では企業の再生を図る再生型の手続が選択されるケースが多いです。

準則型私的整理には主に以下のものがあります。

 

 

■私的整理に関するガイドライン
2001年9月に私的整理手続を初めて準則化し公表したものであり、私的整理手続の原理として定着しています。その後公表された準則型私的整理の多くは私的整理ガイドラインをもとにして作られています。

私的整理ガイドラインは上場企業等の大企業を中心に利用されましたが、主要債権者(主にメイン行)が債務者と共同して手続を進めることから、メイン行がほかの対象債権者より重い負担を要求されるいわゆる「メイン寄せ」の問題もあり、事業再生ADRができたこともあり、現在ではあまり利用されていません。

 

■整理回収機構(RCC)による企業再生スキーム
整理回収機構(RCC)により公表された「RCC企業再生スキーム」で、企業再生の手続や依拠すべき基準の準則が定められています。
RCCによる企業再生スキームは、RCC自らが債権者の立場として取り組む私的整理手続と、主要債権者の金融機関が再生計画の検証や金融機関調整をRCCに委託して進める私的整理手続の2種類があります。
RCC以外の者が利用することができるのは後者ですが、メイン行が積極的に関与する必要があり、メイン寄せの問題が生じやすく、費用面でもRCCに対する手数料が別途発生して割高となります。

 

■事業再生ADR
事業再生ADRは、産業競争力強化法等に基づき、経済産業大臣の認定を受けた「特定認証紛争解決事業者」である事業再生実務家協会が中心となって実施しています。
第三者である専門家の手続実施者によるしっかりとした調査が進められますが、専門家への費用、事業再生実務家協会への報酬料など手続費用が多額になる点や、手続申し込みの前に相当な準備を行う必要がある点から、大企業以外の利用が難しいのが実情です。

 

■地域経済活性化支援機構(REVIC)による再生支援スキーム
株式会社地域経済活性化支援機構(REVIC)が手続遂行の主体となって行う中小企業支援手続です。

REVICによる再生支援の特徴は、再生企業に対して出資および融資を行える点や、経営人材を派遣することができるという点です。再生支援事業が縮小傾向にある時期もありましたが、コロナ禍以降は廃業支援における経営者保証処理やファンド事業とともに、再生支援事業にも力を入れています。

 

■特定調停
裁判所の調停手続にて、債務者と債権者が再生計画や弁済条件を協議する手続です。裁判所にて実施されますが、債権者への強制的拘束力はなく当事者間で合意が得られないと調停が成立しないため、私的整理に分類されます。

民事調停法17条の規定に基づく、いわゆる「17条決定」があることが特徴です。17条決定とは、調停が成立する見込みがない場合に、裁判所が調停委員の意見を聞き、一切の事情を踏まえて、当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度において、解決のために必要な決定をすることができるというものです。

 

■中小企業活性化協議会による再生支援スキーム

中小企業活性化協議会による中小企業を対象とする再生支援手続(以下、「協議会スキーム」)です。

協議会スキームは中小企業のみを対象としているため中小企業の再生に適しており、2023年度末までに累計で67,000件以上(中小企業庁金融課『中小企業活性化協議会の活動状況について~2023年度活動状況分析~』より)と非常に多くの利用実績があります。

協議会スキームのメリットには、以下の点が挙げられます。

 

・相談がしやすい

中小企業活性化協議会は各都道府県に1か所ずつ設置されており、地域ごとに相談窓口があるため、中小企業が相談をしやすい体制が整っています。

 

・外部専門家の支援を受けることができる

外部専門家が中立公正な立場から財務デューデリジェンスや事業デューデリジェンスを実施して財務状況や事業の実態を把握し、再生計画の策定を支援します。

 

・補助金を活用するためコストが抑えられる

中小企業活性化協議会は公的機関であるため、協議会に対する費用や報酬などは発生しません。デューデリジェンスや再生計画の策定などに外部専門家の支援を受ける際には専門家への費用は発生しますが、その一部について国の補助が得られるため、中小企業の経済的な負担が抑えられます。

 

・債権者調整を行いやすい

中小企業活性化協議会のスタッフには、各地域の金融機関出身者等が多く、地域金融機関や信用保証協会、政府系金融機関と日頃から情報交換を行うなど連携が図られているため、地域の実情に即した債権者調整が可能となります。

 

 

■中小企業の事業再生等に関するガイドライン(以下、中小企業版私的整理ガイドライン)

新型コロナウイルス感染症による影響を受けた中小企業者の再生が重要な課題となり、中小企業者がより迅速かつ柔軟に事業再生に取り組める準則型私的整理手続が望まれたことから、2022年4月15日より中小企業の事業再生等に関するガイドラインの運用が開始されました。

再生計画策定支援の大まかな流れは、協議会スキームと同様です。また、外部専門家の支援を受けられることや国の補助金での費用負担制度があるなど、協議会スキームと重なるメリットも多いです。
協議会スキームと中小企業版私的整理ガイドラインにおいては、どちらの手続を利用するかは会社の状況を踏まえて判断することになります。

 

 

 

今回は、主な準則型私的整理手続について説明しました。手続の種類は色々ありますが、中小企業の再生局面においては、協議会スキームや中小企業版私的整理ガイドラインのメリットが多く、特に利用しやすいと思います。

わかば経営会計では、再生計画策定支援において、第三者専門家として企業様にお力添えいたします。事業再生に関して困りごとがありましたら、ご相談ください。

公認会計士(大阪事務所所属)

横井悠莉佳

https://wakaba-ac.jp/member/748/

ほかのカテゴリをみる

記事一覧へ