日本には約337万の中小企業 (2021年6月時点総務省・経済産業省「経済センサス活動調査」より)が存在しており、これは日本の全企業数のうち約99.7%を占める割合です。中小企業が日本経済を支えている存在であることは間違いありません。しかし、近年ではコロナ禍や物価高・円安などの影響で事業が赤字になり、債務超過に陥っている中小企業が増加しています。2024年度上半期(4月~9月)における企業倒産件数は、10年ぶりに5,000件を超える水準となっています。 そこで、今回は、経営が行き詰まった企業が債務整理を進め、事業を再生していくための「私的整理」と「法的整理」について解説します。
2024.12.17
「私的整理」と「法的整理」は、経営が困難になった企業が債務負担を軽減するために行う債務整理手続です。それぞれの概要は以下の通りです。
■ 私的整理
私的整理は、債務者である企業が、破産や民事再生などの法的な手続を経ずに、債権者である銀行や取引先などと直接交渉して財務問題を解決する方法です。裁判所を介さずに、債務者と債権者の自主的な協議に基づいて進められます。
交渉の内容は、債務のカットや弁済スケジュールの変更などであり、原則として債権者と債務者の合意によって債務整理手続が進められます。
■ 法的整理
法的整理は、法律に基づき、裁判所の監督下で債務整理を行う手続(法的倒産手続)です。法的整理をさらに清算型(破産、特別清算)と再建型(民事再生、会社更生)に分類することができます。清算型は債務者である企業の財産を処分し、得た金銭を債権者に分配し、最終的に会社の法人格を消滅させる手続です。一方で再建型は債務の負担軽減によって債務整理を進め、会社の事業を継続しながら再建を図る手続です。
裁判所に対して法的整理手続の申請を行い、裁判所の監督のもとで、法的な枠組みに則って債務整理・再生計画あるいは清算手続を策定し、債権者である金融機関や取引先の承認を得て進行します。
「私的整理」と「法的整理」にはそれぞれメリット・デメリットがあり、どちらの手法を選択するか検討する際には、両者の違いや特徴をしっかりと理解することが重要です。
以下に両者の特徴と違いをまとめていきます。
■ 準拠する法律
私的整理には準拠する法律や裁判所の関与はありません。私的整理手続は、さらに準則型私的整理手続、純粋私的整理と分類できるところ、 準則型私的整理手続では、法的拘束力はないものの、ルール(準則)化された手続が存在するため、手続の透明性や公正性は確保されているといえます(『準則型私的整理とは』)。
■ 手続のメリット・デメリット
準拠法がなく、手続を柔軟かつ迅速に実施することができるため、整理する債務や交渉する債権者を分類して選択するこ とも可能です。金融機関のみを対象債権者とし、仕入先や外注先といった商取引債権者は手続から除外するケースが一般的です。
また、私的整理は非公開で行われるため、企業の評判や取引関係先への影響を最小限に抑えることができるのは法的整理と比べた場合の大きなメリットといえるでしょう。
一方で、法的な強制力がないため、債権者の協力が得られなければ計画は実現しません。債権者同士の利害調整が難しい場合も多いです。
■ 計画の成立要件・効力
私的整理における再生計画の効力は、基本的には計画に合意した債権者のみに及びます。同意しない債権者は計画の拘束を受けず、元来の契約に基づいて、債権を請求することも可能です。
したがって、再生計画を成立させるには債権者の協力が不可欠です。基本的にはすべての債権者の同意が必要であり、同意が得られなければ計画の実効性が制約されることとなります。
■ 準拠する法律
法的整理は裁判所の関与のもとで、法律に基づいて債務整理や再建が進められるため、強制力があり、債権者や債務者の行動が法的に規制されます。
■ 手続のメリット・デメリット
裁判所関与のもとで法律に基づく手続のため、すべての利害関係者が状況を把握しやすい点や、特定の債権者が有利になるような偏った取扱いがなく、債権者が平等に取り扱われる点において、高い透明性や公正性が確保されます。
一方で、手続に入ったことが公開さ れることで企業の信用に影響を与えるリスクや、風評被害が拡大するリスクも存在します。
また、法的整理は法律上厳格な手続が定められており、私的整理と比較すると手続が複雑で時間がかかることが多く、弁護士や裁判所の費用が高額になることが想定されます。そのため、企業や債権者にとって負担が大きくなるケースがあります。
■ 計画の成立要件・効力
法的整理の計画成立要件は手続の種類によって異なりますが、一定割合以上の債権者の同意を得ることが必要です。そして成立した計画は、反対した債権者を含むすべての債権者に対して効力を有することになります。
両者の違い を表にまとめると以下の通りです。
中小企業の事業再生を図るうえでは、事業価値の毀損を最小限に抑えられることや費用負担が軽い面から、まずは私的整理を検討することをお勧めします。
特に地域の中小企業が法的整理を選択した場合、風評被害によって事業を毀損するリスクが大きいだけでなく、一般の商取引債権者も手続の対象とするため、取引先から取引の継続を拒まれたり、取引条件の変更を求められたりする可能性も考えられます。また、中小企業は限られた地域で事業を行っていることが多いため、一社が債務整理をすることで、取引先の連鎖倒産や従業員の住宅ローンの毀損等を引き起こし、地域経済に影響を与えるケースもあります。
これに対し、私的整理手続の対象債権者は一般的には金融債権者に限られるため、仕入先・外注先などの商取引債権者を巻き込むことはありません。そのうえ、裁判所の関与がなく、法律上の決まりが存在しないため、対象会社の状態や抱えている課題に対して柔軟に再生計画を設計できる可能性が高いといえます。
また、私的整理の再生計画の合意には原則として対象債権者全員の同意が必要ですので、対象会社の財務状況を深く理解しているメイン行が、私的整理手続において主導的な役割を果たすことが多いです。そのため対象会社の再建に向けて一緒に取り組んでいく中で、対象会社とメイン行の信頼関係がより深まり、関係の強化・改善につながりやすいという点も私的整理のメリットに挙げられます。企業が経営を立て直すことができれば、メイン行が新たな金融取引で支援し、さらに関係が強固になる可能性もあります。
上記の理由から、中小企業の再生を検討するにあたっては、まず私的整理の利用を考えることが望ましいです。
以上、本記事では私的整理と法的整理の概要、両者の特徴と違い、中小企業における私的整理手続検討の有用性について、紹介しました。
両者の手続について理解を深めることで、企業の財務状況や経営課題に応じた最適な再生手段を選択でき、再建の成功率を高めることができます。
わかば経営会計では、私的整理による中小企業の事業再生支援、事業計画の策定支援など事業再生に関するコンサルティングやその他財務面、事業面で幅広いサービスを提供しています。少しでも不安に思ったり、困ったりすることがあれば、些細なことでもご相談ください。